海棲哺乳類のフィールド科学 SSH公開講演会・MS通信第25号
2月4日(土)に武庫川女子大学 公江記念講堂にて「SSH公開講演会」を開きました。
今回は「海棲哺乳類のフィールド科学」をテーマとして、京都大学野生動物研究センターの教授である三谷 曜子先生にご講演いただきました。
海棲哺乳類の紹介から始まり、ご自身が研究のために北極、南極、アラスカやカリフォルニアなどなど、本当にたくさんの場所を訪れてきたことを教えていただきました。
そして「なぜ海棲哺乳類のフィールド科学」なのか?の原点として、ご自身が幼少期から思い描いていた夢があり、そこから今の先生のご活躍につながっていることを知りました。
その後、これまで研究されてきた内容のお話しになり、「バイオロギングとは何かわかりますか?」と質問が投げかけられました。bio(生物)とlogging(記録)で、「動物自身の生態や周囲の環境情報などを記録する手法」ということを教えていただき、具体的に研究にどのように役立っていたのかをわかりやすく説明してくださいました。たとえば、「回遊」に関する研究で、「アザラシの落葉行動は休息なのか否か?」という切り口で、アザラシの行動記録をもとに分析されていた内容を実際のログを見せながら、説明してくださいました。
次に北極でのフィールド研究の内容のお話をしてくださいました。「氷がなくなると、生態が崩れる」というのはよく耳にすると思いますが、具体的にどのようなことが起こるのでしょうか?氷床で出産する生き物にとっては、縄張り争いが起きます。また、通常シャチはヒレが邪魔で氷床付近には現れません。しかし、氷が溶けてくることで、シャチの行動範囲が広がり、北極周辺の生き物たちを食べてしまうのです。三谷先生はかわいいぬいぐるみの写真で「ほら、こんなことになってしまうんです」と紹介した後に、「次は実際の写真をお見せするので、こわいなぁと思う人は目を伏せてくださいね」と実際に起きている写真や動画も見せてくださいました。
ここからは海棲哺乳類と歴史や、海棲哺乳類と漁業のつながりについての話になり、理系的な知識がなくても、とても身近に感じられる話でした。オットセイの名前の由来は江戸時代までさかのぼることであったり、明治時代にはラッコとオットセイの捕獲に関して、法律で禁じられていたことや、シャチの話があったように、捕食者が増えているせいで魚が減り、漁業に大きなダメージを及ぼしていると仮説をたて、追跡調査を繰り返し、捕食動物の駆除に励んでも、結果としては「この行動のおかげではなく、そもそも被食者が大きく減少してしまったため、捕食者も減少したのではないか」ということになってしまったようです。そこから、漁業と漁業を支えるまち・人々の話になり、私たちの生活がみえないところにいる人たちに支えられて成り立っていることを思い知らされました。
最後に女子校での講演ということで、「女性×キャリア×研究」という観点で、ご自身の研究活動と出産・育児の時のご経験のお話や、日本やその他の国における女性研究者の在り方についてお話ししていただきました。
「人が暮らせない海で良いのか?」最後に三谷先生が私たちに投げかけてくださったキーワードです。ご自身の経験談をたくさん踏まえて、中高生にわかりやすく説明をしてくださり、最後には一人ひとりが「共生」について考えるきっかけをくださいました。
一昨日までは屋久島にいらっしゃったという三谷先生。世界中を飛び回り、本当にお忙しいなか、貴重なご講演をありがとうございました。